マラソンの当事者研究

令和(2019年5月)から本格的にマラソンを始めた30代男による練習・レース記録および考察・内省の記録です。

【本の紹介】No. 1 『「走り」の偏差値を上げる マラソン上達ノート』

紹介する本

この本の良いところ

  • 自分で練習を考える方法が具体例を交え記述されている
  • 無理なく記録をつける方法やモチベーションを維持する方法などtipsの記述がしっかりしている

 セルフマネジメントで東大から箱根駅伝に出場した松本翔氏による本書。松本氏と言えば、陸上の記録会(M×K Distance)や練習会を主催されているTeam M×Kの代表ということでご存知の方もおられるかもしれません。

 本書は、与えられた練習をこなすのではなく、自分で練習を考え、記録更新を目指すことがコンセプトで記述がなされていると感じます。そうしたこともあり練習方法というよりは練習の組み立て方に重きが置かれています。初心者からサブ3以上のシリアスランナーまで幅広い層を対象した本と言えるでしょう。

本書の中身について

Introductionにエッセンスが詰まっているので、その記述を中心に書きます。

Introduction

少ない時間で最大限の効果を上げるための視点が提示されています。基本となるのは、練習で頑張りすぎないこと。また「ペース」「距離」「練習頻度」が適切であるかどうかチェックすることが大切であると述べられています。またPDCAサイクル(Plan[練習計画・レース目標]・Do[練習・レース]・Check[振り返り・分析]・Action[練習方法・レースプランの改善]が円環となっているもの)をマラソンレーニングに応用することで、高い質の練習にもつながると説かれています。

 では、高い質にするにはどうすればよいのか、松本氏は4つの視点を提示しています。

1. モチベーションを維持する

 例えば、練習がマンネリ化した時に、そのまま練習を嫌々続けるのか、練習方法を再考し環境を変えるのか、それだけでも取り組みが変わってきます。

2. 自分で練習を組み立てる

 詰め込みすぎず、それぞれのライフスタイルに合わせた練習計画で、ポイント練習はどの曜日に入れやすいか、そうした視点で計画的に練習を考えることが大切です。

3. 練習内容は柔軟にアレンジする

 その時の気候・体調・練習相手の有無に合わせて、柔軟にプランを持っておくことが書かれています。そして、「やりすぎないこと」が大切です。

4. いいフォームを意識する

 「腹筋が使えているか」「肩甲骨が動いているか」といったことが書かれており、前者は主観で後者は誰かに見てもらうあるいは動画に撮るといった方策がありそうです。

Chapter 1

 基本的には、Introductionの考えをより具現化した形で、自分の走力に合わせた無理のない練習計画が書かれています。端的にまとめると、「ポイント練習は2回」「ポイントとポイントは中2日以上開ける」「腹八分の練習」「ライフスタイルに合わせて、一回一回の練習を集中する」といったところでしょうか。

Chapter 2

 具体的な練習法ですが、コンパクトにまとまっています。なぜするのか、その目的や効果について類書がありますので、より実践的なこと、例えばどう強度の高い練習以外の時に練習をするか、無理のない設定ペースとは何か、集団での練習会をどう使うかといった記述がコンパクトに書かれています。

Chapter 3

 年間での練習(いわゆる期分け)に関する考え方が中心に書かれています。年間を通して同じような練習ではなく、夏場はスピード系で集中できる短い時間で行うとか、そうした話ですね。

 また、具体的には目標設定のための5kmタイムトライアルで自分の立ち位置を確認したり、練習改善につなげることができるといったことも書かれています。

 さらに、1週間の練習メニューも書いてあり、場面に応じた練習の考えで自分の環境に落とし込んでアレンジすることもできます。

 そして、個人的にはここが一番大事だと思いますが、「練習日誌」のつけ方について紙幅が割かれています。ざっと書くと「天候」「練習内容」「走行距離」「タイム」「体調」は最低限必要で、そこからプラス考えたことを書くこともできると思います。毎日続けるために簡単に記すことが大切で、また書きっぱなしではなく「読み返して」レースのたびに振り返る材料として用いることが日誌をつける意義だと本書を読んで私は感じました。

その他

 Chapter 4以降はレースマネジメント・セルフケアなどの記述で、類書があると思われますので割愛しますが、Chapter 4でも「振り返り」の重要性が記述されていました。レース後の振り返りを行うことにより、どうすれば同じ失敗を繰り返さないことにできるか、その後のペース設定やレース前の調整など、その一助となる気づきがあるのは松本氏だけでなく、私も感じているところです。

全体を通じて

 150頁ほどの本でコンパクトにまとめてあり、またイラストや図で読みやすくなっているので文字ばかりの本が苦手な人にもおすすめできると思います。個人的には、「視点を変えるヒント」という欄が非常に有益だと感じていて、先に述べたChapter 2で書かれていた「無理のない設定ペースとは何か」を例にとると

視点を変えるヒント

× 自分が出せるスピードの限界に挑む

○ フォームを乱さず走り切れるペース (p. 45)

のようにランナーが「しくじる」ポイントに対して、代替案がわかりやすく書かれています。この部分が実に面白いので、そこの部分だけ読んでも得られることがあるのではないかなと思っています。

 蛇足までに、個人的に一番学べたなと思うことは、練習はポイント練習であってもガムシャラではなく少し余裕を持った腹八分で良いという考え方でした。悪い時は悪い時なりに距離を調整したり、ペースを落とすなりして、余裕を持たせることでそれはそれで成功体験を得ることができるいう主旨の記述を見て、「それで良いんだ」と安心した記憶があります。

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 ということで、この本の紹介シリーズは不定期ですが、これからもおすすめしたい本を紹介していきたいと思っています。今後ともよろしくお願いします。